シリコーンゴムの着色については、日頃からお問い合わせをいただくことが多くあります。基本的な考え方はどのケースでも共通しており、ここでは代表的な方法と注意点を整理してご紹介します。
シリコーンゴムへの着色については、よくご質問をいただきます。特に多いのは、
- プラチナ硬化シリコーンゴム(補綴物や小道具など)への着色方法
- スズ硬化タイプのシリコーンコーキングにインク(塗料)を付着させる方法
の2つです。
基本的な考え方はほぼ共通していますが、当社の付加硬化シリコーンにはシリコーンコーキングの使用を推奨していないため、本稿では プラチナ硬化シリコーンへの着色 を中心にご紹介します。
シリコーンゴムの種類
まず、シリコーンゴムには、大きく分けて以下の2種類があります。
- 付加硬化型(プラチナ硬化型)
- 縮合硬化型(スズ硬化型)
それぞれに特徴があり、用途や仕上がりに応じて選択されます。・・・シリコーンゴム詳細は、こちらの記事を参照
シリコーンゴムへの着色について
シリコーンゴムはそのままではインク(塗料)が密着しません。
- 定着を促進するための下準備
- 適切な手法の選択
この2点を押さえておくことが、着色を成功させる鍵となります。
主な手順:離型剤の除去
1. 表面処理(離型剤・油分の除去)
シリコーンゴム表面に残った離型剤や油分をしっかり除去することで、塗料やインクの定着性が高まります。
使用できるもの
・【IPA】
・【アセトン】
・【中性洗剤】
上記のいずれかで表面を拭き取れば、下準備は完了です。
※注意点(補綴物にボールディーズ系を使用している場合は、IPA・アセトンの使用は不可)
2. 着色の際のポイント
シリコーンゴムは柔軟性が高く、これに追従できない塗膜は定着してもすぐに劣化します。
硬いインクを使用すると、剥離やクラック(ひび割れ)が生じ、外観を損なう原因となります。
そのため、
- 柔軟性のあるインクを選択する
- 既存のインクを調整して柔軟性を付与する
このどちらかの対応が欠かせません。
最終更新日:2025 / 9 / 25
シリコーン【プラチナ硬化】での着色
プラチナ硬化シリコーンゴムへの着色は、同じプラチナ硬化シリコーンを用いる方法が最もおすすめです。
柔軟性のあるインクを使用できるため、安定して定着し、作業効率も良くなります。
注意
プラチナ硬化シリコーンゴムの中には、ゴム化後に別のシリコーンを流しても結合しにくい(または結合しない)タイプがあります。この場合、以下の着色方法は使用できません。
- トランジル2O
- トランジル4O-1
これらのシリコーンは着色材として使用できますが、着色される側(既存のシリコーンゴム)への定着は難しくなります。
1. 着色に使用するシリコーン
- 粘性が低く、硬化が早いシリコーンを用意してください。
- 粘性のあるシリコーン(例:GEL-10)にシリコーンオイルを添加して粘性を下げることも可能ですが、シリコーンとの架橋結合が行われないため、ゴム内からオイルが浸出します。
→ そのため、オイル添加量を最小限に抑えるためにも、粘性の低いシリコーンを準備することをおすすめします
※・・・【シリコーンオイル】の架橋結合については、こちらの記事【ショア硬度の変化はシリコーンオイルはお勧めできないについて】を参照
2. シリコーンゴムを柔らかくする添加剤
- 着色用シリコーンが硬い場合や、仕上がりをより柔らかくしたい場合に使用します(必要に応じて)。
3. 着色剤
- シリコーンピグメントがおすすめです。少量でもシリコーンゴムにしっかり色が混ざります。
- 他の塗料も使用可能ですが、発色・コスト・硬化阻害の点で注意が必要です。
4. 薄め液
- 着色剤を薄めることで透明感のある仕上がりを作ることができます
- この工程により、リアルな皮膚感やキャラクター表現を再現可能になります。
5. 推奨インク道具(プラチナ硬化用)
1,GEL-25
- 粘性が低くサラサラしているため、シリコーンゴムに接着しやすく、硬化も早い。
- GEL-00やGEL-10でも着色可能ですが、粘性が高いためシリコーンオイルやスーパーソルブの量を増やす必要があります。
2,デッドナー LV
- 硬化後のシリコーンゴムのショア硬度を下げ、柔らかくする添加剤。
- GEL-25はショアA 25度品であるため、着色対象のシリコーンゴム(例:ショアA 00)より硬い場合、デッドナーを添加して柔らかくする必要があります。
- デッドナーLVは粘性が低く、着色剤として使いやすい。
3,シリコーンピグメント
- 発色・硬化阻害・コスト面でバランスが良く、シリコーン用の標準的着色剤。
4,シリコーンオイル(代用:スーパーソルブ)
- インクの濃度や透明感の調整に使用。
- スーパーソルブでも代用可能ですが、以下の欠点があります。
欠点
- シリコーンオイル:架橋結合しないため、ゴム化後に油が滲出する
- スーパーソルブ:硬化時間が遅く、揮発後に色が縮む
結論
- 粘性の低いシリコーンを使用することで、シリコーンオイルやスーパーソルブの使用量を減らせます。
- オイルの量を減らすことで浸出を抑え、色の縮みも最小限にできます。
・・・【シリコーンオイル】の架橋結合については、こちらの記事【シリコーンゴムの柔軟性をシリコーンオイルで代用はできないについて】を参照
シリコーンコーキングでの着色【スズ硬化への着色】
油性インクに柔軟性を持たせるために、シリコーンコーキングに混ぜてペイント材(塗料)を作ります。
このままでは色が濃いため、透明感のある皮膚や小道具には不向きです。透明感を出すために薄める必要があります。
薄め液として、ホワイトスピリット(ミネラルスピリット)を使います。シリコーンゴムに透明感のある色で着色することができます。混合したホワイトスピリットは蒸発し、色だけが残ります。
エアブラシ機器で飛ばすことができるぐらい薄めることもできます。
※この方法を試す場合、必ず防塵防毒マスクを使用して下さい。
※エアブラシガンもすぐに洗浄をします。硬化後掃除をすることはできないため。
使用(作成)するインク道具【コーキングペイント】
・シリコーンコーキング
・油性インク(塗料)
・ホワイトスピリット
この方法は【スズ硬化】シリコーンゴムへ着色する場合は、とても安定して定着します(コーキングもスズ硬化ベースのため)。しかし、【プラチナ硬化】シリコーンゴムへ着色する場合は、コーキングが定着しにくく剥がれ落ちることもあります。
その場合いくつか方法がありますが、代表的な物を1つ。Dリモネン(オレンジオイル)と、非常に強力な接着コーキング剤であるWacker Elastosil A07(日本では旭化成が代理店)を混ぜたものを【プラチナ硬化】シリコーンゴムに塗ります。乾燥すると、プラチナ硬化シリコーンゴムに定着して、上記のコーキングペイントの付着がよくなり、乾けば崩れにくくなりあます。
利点
・スズ硬化シリコーンゴムとの相性が良い
・低価格
欠点
・プラチナ硬化シリコーンゴムに着色の場合、定着が悪いため下処理が必要
・安全性
ホワイトスピリット使用時は注意が必要
ボールディーズでの着色
【ボールディーズ】(被膜形成剤)を【アセトン】で希釈し、そこにアセトンでも溶ける塗料で色付をします。
シリコーンゴムへの着色はペイントブラシやスポンジで塗ることもできます。しかし、アセトンが揮発してボールディーズだけになったペイントブラシやスポンジは固まります。その場合元に戻すことはできません(使い捨てになります)。
この着色方法はエアブラシで吹きつけての着色がお勧めです。
※必ず防塵防毒マスクを使用して下さい。
利点
・全てのタイプのシリコーンゴムとの相性が良い
欠点
・安全性
・エアブラシ機器を準備
・強い摩擦に弱い
・アセトンで溶けだす
スーパーボールディーズでの着色
【スーパーボールディーズ】(被膜形成剤)を【IPA】で希釈し、そこにアルコールで溶けるインク(DURA)で色付をします。
シリコーンゴムへの着色はペイントブラシやスポンジで塗ることもできます。しかし、IPAが揮発してスーパーボールディーズだけになったペイントブラシやスポンジは固まります。その場合元に戻すことはできません(使い捨てになります)。
この着色方法はエアブラシで吹きつけての着色がお勧めです。
※この方法は、必ず防塵防毒マスクを使用して下さい。
利点
・全てのタイプのシリコーンゴムとの相性が良い
欠点
・エアブラシ機器を準備
・強い摩擦に弱い
・IPAやアセトンで溶けだす
アルコールベース パレットでの着色
特殊メーク業界やメーク業界では、最も知られている優れたインクの1つ。アルコールで溶かして使用するパレットで、世界中の特殊メークアーティストや、ヘアメークアーティストが愛用しています。【Dura パレット】、【スキンイラストレーター】が日本では人気があります。

アルコールベースのインクは柔軟性があり、役者の激しい動きでも落ちることがありません。アルコールで溶かして使用することで透明感も得られ皮膚感も容易に演出できます。もちろん柔軟性も担保されます。
柔軟性もあるためシリコーンゴムにも着色できます。アルコールペイントは、補綴物(アプライエンス)などの着色には向いていますが、小道具などには不向きです。理由は、強い摩擦と(長)期間による色落ちです。
小道具等にアルコールペイントで着色後にコーティングをしない場合、何度も繰り返し手で触れていると摩擦で色落ちが見られます。また、シリコーンで造形物(展示物)を製作した場合、シリコーンゴムに含まれる物質【シリコーンオイル】が、ブリードすることでペイントされている色が薄くなったり、より摩擦で落ちやすくなったりするため。
※コーティング剤はいくつかあります。下記、【アルコールインクでの着色】を参照。
・・・【シリコーンオイル】のブリードについては、こちらの記事【シリコーンゴムの柔軟性をシリコーンオイルで代用はできないについて】を参照してください。
アルコール インクでの着色
エアブラシ機器で使用するために液体状になっているインクです。日本では【DURA】(デュラ)が最も人気があります。特徴は、上記【アルコールベースパレットでの着色】内に記載。

エアブラシで吹きつけることで、弾きやすい素材にも付着させることが容易にでき、シリコーンゴムへの着色にはエアブラシがお勧め。
エアブラシ着色後にコーティングをすることで、ペイントの崩れを防止できます。もちろん上記アルコールパレットを使用した場合も同様にペイントの崩れを防止します。
シリコーンゴムの柔軟性に合わせるように、インクも柔軟性を持たせることが重要と説明しました。同様にコーティング剤にも柔軟性が求められます。
ここでは特殊メークやステージメーク、特殊造形で使用されるコーティング剤を取り上げます。
グリーンマーブルシーラー
特殊メーク用のシーラーです。
特殊メーク用、ステージメーク用で1番コーティング力が高いコーティング剤。
匂いが強いため匂いに敏感な方は気を付けて下さい。
ブルーマーブルシーラー
特殊メーク用のシーラーです。
仕上がりは艶を抑えてマット(非光沢)になります。
グリーンマーブルよりもコーティング力は弱くなります。
ゼロマーブルシーラー
特殊メーク用のシーラーです。
仕上がりはブルーマーブルよりも艶を抑えてマット(非光沢)になります。
グリーンマーブルよりもコーティング力は弱くなりますが、ブルーマーブルよりもコーティング力は強くなります。
バリアスプレイ
ステージメーク用のシーラーです。
ペイント(塗料)が落ちやすいものを使用している場合にオススメです。
例えば、ステージメーク用の【クリームペイント】は摩擦に弱いですが、バリアスプレイを使用することで摩擦に強くなります。その他には、フェイスペイントで使用される【AQ】(水性)は水分に弱く大量の汗で溶けだしますが、コーティングすることで水分にも強くなります。シリコーンゴムへも使用できますが、使用するペイント(塗料)が摩擦に弱く、水分に弱い場合はお勧めです。
ボールディーズ
特殊メーク、特殊造形用の被膜形成剤です。(シーラーとしても代用可)
着色後に表面上にエアブラシで吹きつけてコーティングします。こちらはアセトンで希釈するタイプ。
スーパーボールディーズ
特殊メーク、特殊造形用の被膜形成剤です。(シーラーとしても代用可)
着色後に表面上にエアブラシで吹きつけてコーティングします。こちらはIPAで希釈するタイプ。
・・・【ボールディーズ】【スーパーボールディーズ】ついては、こちらの記事【被膜形成剤の重要性。ボールディーズとスーパーボールディーズって?】を参照してください。
上記の説明はシリコーンゴム(硬化後)の着色について、いくつかの方法を説明をしました。
シリコーン【AとB】を混ぜ合せる前に必ず、それぞれに内部着色で大凡の色を作成しておきます。
シリコーンへの内部着色は、【シリコーンピグメント】【フロッキング】を使用します。